研究系及び研究施設の現状 135
大 島 康 裕(教授)
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A -1)専門領域:分子分光学、化学反応動力学
A -2)研究課題:
a) 気相芳香族クラスターの構造と励起状態ダイナミックスの解明 b)強静電場中の気相孤立分子に関する分光理論ならびに実験手法の確立 c) フェムト秒分光による振動・回転量子波束ならびに無輻射過程の観測 d)コヒーレント非線型分光のための高分解能レーザー光源の開発
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) 芳香族分子は,光励起によって多様な緩和過程や化学反応を示すが,これらは外部環境によって大きく影響される 場合も多い。このような「溶媒効果」に対する微視的モデルとして気相クラスターを取り上げ,周波数領域および実 時間領域の各種レーザー分光を併用することにより,水素結合や分子の配列形態のような静的構造因子が,無輻射 過程や励起子交換相互作用とどのように相関するかを解明してきた。昨年度からは,芳香環と水素結合性分子との 相互作用ポテンシャルを精密に研究する目的で,ベンゼン−水クラスターの電子遷移の観測を行っている。特に, ホールバーニング等の2重共鳴レーザー分光を用いることによって分子間振動が励起した振電バンドを高感度で 検出し,振動準位構造を実験的に決定することに重点を置いている。
b)分子に対する外部環境の効果としては,静電的相互作用が主要な役割を占める。クラスターの研究は局所的構造を 反映した情報を得るのに有用であるのに対して,分子全体に作用する電場の効果を検討する方法の確立も不可欠で ある。このような問題意識のもとに,強静電場中にある孤立分子の分光学的研究を行っている。理論的には,電場− 双極子相互作用によって回転運動が拘束された状態(pendular状態)について考察を行い,エネルギー準位や選択則 等に関する強電場極限での解析的表現を求め,pendular 状態の物理的描像を確立した。実験的には,200 kV /cmの電 場強度のもとで超音速分子線からのレーザー誘起蛍光を観測する装置を完成させ,実測スペクトルが新導出の理論 によって簡潔に帰属できることを検証するとともに,空間配向度を制御した分子集団の生成・選択の可能性を明ら かにした。また,溶液中で蛍光プローブとして多用されているクマリン系色素に応用し,電子励起による電気双極子 モーメント変化(∆µ)を実験的に確定した。∆µはスペクトルシフトから溶媒極性を見積もる際に最重要なパラメー ターであり,本結果は,溶液中の測定を解析する上での基準となる。
c) 強静電場や光電場中の分子における振動・回転エネルギー準位構造や各種緩和過程を極めて高い時間分解能で研究 する手段の開発を目的として,本年度よりフェムト秒レーザーを用いた実時間分光実験を開始している。超音速 ジェット中で冷却した分子について,相対位相をランダムに変調した同一波長パルス対を用いる干渉計測法(C OIN; C oherence Observation by Interference Noise)により,電子遷移に関するコヒーレンスの時間発展を観測するシステ ムを製作した。C OIN法は,単一のレーザーのみを利用し,かつ,精密な光路長の制御を必要としない計測法であり, 広範囲な分子への適用性を有することが特徴である。現在までのところ,ヨウ素分子のB–X遷移における伸縮振動 量子波束,o- フルオロトルエンの S1–S0遷移におけるメチル基内部回転量子波束,ベンゼンのS1–S0遷移における回 転量子波束の観測に成功している。現在,スペクトルの解析が進行中であり,C OINで観測されるコヒーレンスの特 徴を検討する予定である。また,ナフタレンのS2–S0遷移においては,S2からS1への内部部転換によりレーザーパル
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ス幅(~200 fs)でコヒーレンスの減衰が完了することも見出している。
d) 気相クラスターや強電場中の分子に関する高分解能電子遷移観測,ならびに,コヒーレント非線形分光への利用を 目的として,フーリエ限界のパルス光(周波数幅 ≤ 0.01 cm–1)を出力しうる全固体単一モードパルスレーザーを製 作中である。システムの構成としては,波長可変の連続発振レーザーをシード光として,B B O非線型結晶を用いて単 一モード Y A G レーザー励起でパラメトリック発振を行う。シード無しの発振では充分な変換効率( 20% )を達成し ており,現在,狭帯域発振へ向けて調整を行っている。
B -1) 学術論文
Y. OHSHIMA, R. KANYA, Y. SUMIYOSHI and Y. ENDO, “FTMW Spectroscopy of Jet-Cooled 9-Cyanoanthracene,” J. Mol. Spectrosc. 223, 148–151 (2004).
R. KANYA and Y. OHSHIMA, “Pendular-Limits Representation of Energy Levels and Spectra of Symmetric- and Asymmetric- Top Molecules,” Phys. Rev. A 70, 013403 (19 pages) (2004).
R. KANYA and Y. OHSHIMA, “Pendular-State Spectroscopy of the S1–S0 Transition of 9-Cyanoanthracene,” J. Chem. Phys. 121, 9489–9497 (2004).
B -6) 受賞、表彰
大島康裕 , 分子科学研究奨励森野基金 (1994).
B -7) 学会および社会的活動 学協会役員、委員
日本分光学会装置部会企画委員 (1995-1999). 日本化学会近畿支部幹事 (2001-2003). 分子科学研究会委員 (2004- ).
分子科学総合討論会運営委員 (2004- ). 学会の組織委員
The East Asian Workshop on Chemical Reactions, Local Executive Committee (1999).
分子構造総合討論会実行委員 (2003). 学会誌編集委員
日本化学会誌(化学と工業化学) 編集委員 (2001-2002).
B -10)外部獲得資金
一般研究(C ), 「ラジカル反応対における分子間相互作用」, 大島康裕 (1995年).
一般研究(B ), 「溶媒和クラスター内エネルギー散逸過程の実時間領域測定」, 大島康裕 (1996年 -1997年). 三菱油化化学研究奨励基金 , 「分子配置の量子波束制御と化学反応コントロール」, 大島康裕 (1998年). 基盤研究(B ), 「微視的溶媒和による無輻射過程の制御機構の解明」, 大島康裕 (1998年 -2000年). 日本証券奨学財団研究調査助成 , 「1重項酸素生成機構の分子論的解明」, 大島康裕 (2000年 -2001年). 旭硝子財団研究助成 , 「1重項酸素生成機構の分子論的解明」, 大島康裕 (2000年 -2001年).
研究系及び研究施設の現状 137 日本原子力研究所黎明研究 , 「気体分子の配向完全制御と動的構造決定への応用」, 大島康裕 (2002年).
住友財団基礎科学研究助成 , 「気体分子の配向完全制御と動的構造決定への応用」, 大島康裕 (2002年). 基盤研究(B ), 「孤立少数自由度系における構造相転移の実験的探索」, 大島康裕 (2002年 -2004年). 光科学技術振興財団研究助成 , 「コヒーレント光による分子運動の量子操作」, 大島康裕 (2003年 -2004年).
特定領域研究(強光子場分子制御)(公募), 「強光子場による分子配列・変形の分光学的キャラクタリゼーション」, 大島康 裕 (2003年 -2005年).
C ) 研究活動の課題と展望
今までの研究を発展させる形で,特に,分子の振動と回転という運動の自由度に着目して研究を進めていく。具体的には, 振動・回転に関するエネルギー準位構造を詳細に明らかにし,その知見を基礎として運動量子状態を外部的に操作する方 法論の開発を目指す。主として分光学的手法により研究を行うが,極短パルスレーザーと高分解能レーザーを併用した多様 で独自なアプローチをわれわれのグループの特徴としたい。つまり,高分解能レーザーによる(方位量子数を含んだ)量子状 態選択に引き続いての極短パルス光励起,および,高強度極短パルス励起後の高分解能レーザープローブ等である。これ らに必要なレーザー光源の開発,特に,単一モードパルスレーザーの製作を早期に完了させたい。運動量子状態操作法が 確立すれば,様々な研究に展開できると考えている。中でも,①クラスターを対象とした分子間相互作用ポテンシャルの精密 決定,②単一量子状態の化学反応ダイナミックス研究,を重点的に進める予定である。
*)2004 年 9月 1日着任